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2024.10.23INFORMATION

HalfAnniversary記念 書き下ろしストーリー公開【第1弾】

「廻らぬ星のステラリウム」のHalf Anniversaryを記念して、
現在メインシナリオを担当しているライターの書き下ろしストーリーをお届けします。
※全3回を予定しております。

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■談話室にて

「図書館にいると思うよ」

ソファに寝そべったアルは、ドーナツを食べるのをやめない。

「っていうかゼタがいる場所なら、図書館しかないと思う」

思えば、ベリルウッドの森で見たリスも同じような顔をしていたなとユージンは思う。
小憎らしいような、愛嬌があるような。馬鹿にしているような、リラックスしているような。
いや、このアルという男は入学してまだ一か月ほどのはずだ。
一年早く入学したからと言って偉ぶる気は当然ないが、流石にもう少しこう……。

「ごほん!!!!!!!!!!!!!!!!!」

この間抜けな雰囲気に飲まれまいと咳払いをしたのだが、威圧は無駄に終わったらしい。
ユージンを見上げているアルは、不思議そうに首を傾げている。

「ゼタとお話って……ゼタとお友達になりたいの? せんぱい」

舌ったらずにそう言われ、思わず眉間に皺が寄った。
待て、ユージン・グレイ。
こいつは決して俺を舐めているわけではない。
ただ単に先輩への口のきき方を知らないだけだ。
頭の中では不毛なユージン会議が繰り広げられる。

「特別寮を利用するにあたってのルールを話に来ただけだ」
務めて先輩っぽく、紳士らしく、ユージンは告げた。

フィクステラを手に入れた学生たちが、共同生活するようにと寄せ集められた特別寮。
まともに生活しているのは一部の面々だったが、ベリルウッドの人間はほとんど寮に住んでいた。それが、学校からの命令だったからだ。
国も身分も考え方もバラバラ、しかも個性だけはやたら強い。
談話室に勝手にビリヤードを持ち込んだり、持ち寄った酒を飲んだり、賭け事をしたり……。
それだけならまだしも、シュルヴァートの騎士などは扉を三回壊した。

「この扉、弱くありませんか?」
驚くユージンに気付いているのかいないのか、奴はそう言って退けたのだ。
だが。しかし。
ユージンが入学したての頃はそれでも我慢してきた。
なんせ奴はシュルヴァートの王子の護衛騎士だ。
ここでのもめ事がいずれ国際問題に発展しかねない。
それに別に奴が扉を壊そうがペンを折ろうが、ヒューゴ様に迷惑を掛けなければいい。
直せば良かろうなのだ。
「すまない、これは私が直しておこう」と言ったシュルヴァートの王子を三度見はしたが。

本格的な問題は、ゼタがユージンの隣室へと越して来た日から起こった。
ゼタの部屋から廊下へと本が溢れ出し、本に押しつぶされる形でヒューゴの部屋の扉が開かなくなった時のことだ。

『おやおや……早速やったね、ギザムルークの子。随分と勉強熱心な子みたいだ』
慌てて本を放り主人を救出すると、主は楽しそうに笑って言う。

『互いが少しでも譲り合えば、気持ちよく生活ができるのにね』
その言葉を聞いた瞬間、ユージンは弾丸のように飛び出した。
そう、そうなのですヒューゴ様!
たった少しの秩序という名の気遣いが、奴らにはないのです!
ユージンは奴らを注意し、秩序を生む名目をもらったのだと思っていた。

「だいたいさあ、なんで先輩が注意してるの? 寮の管理人でもないんだから」

痛いところを突いてくる。
彼の双子の兄、アルは全く同じ顔をしているにもかかわらず性格は全く似ていない。
問題を起こしている弟のゼタは、どちらかというと慇懃無礼なタイプだ。

「そうだ。誰の管理下でもない。ならば、ルールを重んじるベリルウッドがやるだけだ」
「あはは! おもしろ。ベリルウッドの人間ってそういう人が多いんだね」
「モノを食べたままそんな風に口を開けるな!」
「ごめんごめん。でも俺たちきょうどうせいかつ?慣れてなくってさ」

のっそりとソファから起き上がり、ユージンを見下ろす。

「ぶっちゃけ、ルールを守るのもあんま得意じゃない。だから先輩が言っても忘れちゃうと思うけど」

にこっと笑ってユージンの手を取り、ぶんぶんと振るような握手をしてきた。

「でも俺たちに注意してくるなんて人ギザムルークにはいなかったからさ! すっごい楽しい!」

ユージンの顔が歪む。
やはりこの特別寮には、秩序が必要だ。

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