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2024.10.29INFORMATION

HalfAnniversary記念 書き下ろしストーリー公開【第2弾】

「廻らぬ星のステラリウム」のHalf Anniversaryを記念して、
現在メインシナリオを担当しているライターの書き下ろしストーリーをお届けします。
※全3回を予定しております。

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■図書館にて

「幽霊が出るって噂、本当なのかな」

オリヴァーの声だ。
マニは本から少しだけ顔を上げる。

「嘘に決まってるって。いてもジークがいるからね!」
「俺のことなんだと思ってるんだ?」
「「傭兵」」
「……」

オリヴァーと一緒にいるのは……
特別寮でいつも何か作っている人と、その隣でいつも何か食べている人。
多分そうだ。

その声の主を聞き分けるなり、マニは書架と書架の間へと体を滑り込ませた。

決して、逃げているわけじゃない。
でもきっと、見つかったらたくさん話しかけられる。
気の利いた返しの一つも出来ず俯く僕に、それでも彼らは話しかけてくるだろう。
それがたまらなく嫌だ。
がっかりさせてしまうのが、何より一番嫌だ。

心の中でそう言い訳を済ませ、マニは視線をページへ戻す。
今は何より、心の平静を取り戻そう。
先ほどまで追いかけていた文字をもう一度拾い始めた、その時──

「おい」
「うわあ!」

マニは思わず叫び声をあげた。

「なんだなんだ!?」
慌ててオリヴァーが駆け寄って来る。

「な、なんですか……」

感情のない肉食動物のような二つの目が、じっとマニを見下ろしていた。

「ジーク!? マニのこと襲っちゃダメだろ!?」
「襲ってない」
「じゃあ何でこんな怯えてるのさ。あ、君も一年生だよね! 特別寮の!」

そう言って、切り揃えられた髪を揺らして首を傾げる。
これがいつも何か作っている──アムル・ルッタ。

こくこくと質問に頷くマニをじっと見下ろす。
これがいつも横で何か食べている──ジーク・キュンメル。

「もしかしてご飯まだ?」
「あ……えっと」
「よかったら一緒に食わない? アムルが作ってくれるらしいぜ」
「君は何が好き!? シュルヴァートの子なんだよね。ということはやっぱりスープ系がいいのかな? でもアルタール島の気候だと」
「うるさい」
「ひどい!」

彼らのにぎやかな声は、静かな図書館によく響いた。
間を空けず司書さんが飛んできて、彼らはもちろんのこと、その場にいたマニまで怒られるはめになったが。

そうして10分ほど怒られたところで、ジークのお腹が「ぐう」と鳴った。
オリヴァーは思わず笑いそうになって顔をそらし……なんとか堪えていた。

「ホントごめんな、巻き込んじゃって……」
「……いいよ。で、でも……図書館は静かにね」
「ごめんなさい! ほら、ジークも謝ろう」
「俺はずっと静かだっただろ。腹以外」
「まあ確かにそう……だけど、ふ、ふふ。だめ、笑っちゃう」

思い出し笑いをするアムルを、ジークがじっと見下ろしている。
マニを見下ろしたあの目だ。

ひょっとしたらあれは、悪意や敵意があったというわけではないのかも知れない。
そう思えば、マニの心もふっと軽くなった。

「面白いよな、あいつら」
「……うん」
「せっかくみんな特別寮なんだし、仲良くなれたら嬉しいなって」
「なれる、のかな。僕、面白くないよ。失礼なこと言うかもしれないし」
「あいつらはそういうの気にしないんじゃないかな?」
「そう、いうもの……かな?」

誰かと並んで歩くことも、一緒に怒られることも、マニには何一つなじみがない。
全てが新しく、全てが初めての体験だ。

「なあ。今度、図書館で本探し手伝ってくれる? 静かにしてるから」

前を歩くアムルとジークに聞こえないように、オリヴァーがこっそり耳打ちする。

マニは目を泳がせ、断る理由を探して、やっぱりやめた。
マニを見つめるオリヴァーが、あまりにも楽しそうだったから。

「……デザートを一つくれるなら、考えてもいいよ」
「マジで!? やった!」

隠れるくらいなら、堂々とこの『初めての体験』を味わうのも悪くない。
そう思った自分が、今はいる。

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